テントのブログ

漫画家デビューを目指す道のりや、自作のゲーム音楽など創作活動全般について綴ります。また雑記なども書きます。

【漫画語り005】鳥山明にとって孫悟空とは何なのか

私は自分や他人を分析するのは好きなのですが、漫画や映像作品を見ても登場人物の心情を考えることがほとんどありません。どうしても作者の心境に関心が行ってしまいがちです。

 

こんなことではいけないと思うのですが、それはそれとして、鳥山先生がなぜそんなに悟空が好きなのか、気づきがあったので書きたいと思います。

 

私はブウ編の悟空はZガンダムアムロみたいでかっこ良くて好きなのですが、主人公になっている間の悟空はぶっちゃけあんまり好きではないです。なので、鳥山先生が悟空を好きなのは「少年漫画的に動かしやすいキャラだから」だと今までは考えていました。しかし、それならブウ編も悟飯を主人公のままにしていたはずです。ドラゴンボール大全集で、鳥山先生は「悟空じゃないと乗れない」と仰っていました。

 

自分が漫画を描くようになり、「自分が主人公に憑依できてないと乗れない」ことがわかってきました。さらに、作者が乗ってないと読み手にも伝わってしまい、面白くなくなってしまうことも分かってきました。

 

鳥山先生は90年代の漫画界でどんどんスターダムに上り詰め、神様クラスになりました。悟空が仲間を置いて強くなっていく様子とダブります。悟空のライバルたちが他の作家さん、悟空は鳥山先生の投影だったと考えると、筋が通ります。

 

悟空の「ワクワクする」という口癖も、現実の人間にそんな感情は起こるわけがない、と思っていましたが、自分自身が持ち込みという土俵に立つ時、ワクワクしている気持ちに気づきました。鳥山先生も週刊連載を続けながら、しかも不動の人気を維持し続けるという死闘を繰り広げ、どこかワクワクする気持ちがあって、それを悟空に投影していたんじゃないかな?と思います。

 

悟空の合理主義や少年漫画の主人公にあるまじきドライさも、鳥山先生が憑依していたからだと考えると理解できます。

 

セル編で悟空が超サイヤ人のまま普段の生活を送ることを選んだことも、働いている方なら共感できるのではないでしょうか。「ベタを塗りたくなかったから」というのもあると思いますが、鳥山先生が悟空に憑依していたことを考えると、「体が壊れるような思いで漫画を描かなくてはならないが、それでは心が壊れるので、肩の力を抜いた状態で漫画を描く自分」を悟空で吐き出していたのだと思います。

 

ブウ編は鳥山先生が悟飯に憑依できていなかったのが分かってしまいます。ブウ編から悟飯のキャラがブレて軽くなったのも、何とかしてこの乗れない状態を打開するための工夫だったのではないでしょうか。

 

DBに今でも原作派の方がいるのはわかります。アニメ版だと悟空はまるでものすごい聖人のように描かれていて、あのコレジャナイ感は鳥山先生が憑依していたかどうかの大きな差だと思います。

 

とはいえ、Dr.スランプ則巻千兵衛のキャラクターから、鳥山先生は本来はスケベな主人公の方が動かしやすいのだろうとも思います。ブウ編の悟空が老界王神に不純な取引を持ち掛けていたのは、鳥山先生が悟空に憑依していたから、ついやってしまったのでしょう。スケベな側面はウーロンや亀仙人で発散していたのかなと思います。

 

DBの原作が面白かったのは、どこか心の奥底で本能を揺さぶられる感覚があったからだと思います。

【持ち込みレポ031】ウルトラジャンプさんに持ち込みに行きました

今年は持ち込み納めです。年間持ち込み回数は合計115回になりました。詳細はnoteに綴っておりますので、ご覧いただければ幸いです。

note.com

 

年内最後はウルトラジャンプさんへの持ち込みでした。

 

28日にもなると集英社さんの表玄関が閉まっており、動揺しました。それでも持ち込みに来ている人は多いようで、自分は3番ブースに。隣のブースから、チャラい感じの新人作家さんに、編集者さんが「読者に読んでもらおう、読者を楽しませようという意識が足りない」と溜め口でアドバイスしているのが聞こえました。

 

自分の作品については、下記の通りでした。


ゲーム音楽を題材にするというのは意外な視点です。ページ数も読み切りにはちょうど良いです。

 

絵については、画力のレベルアップが一番近道で、引きのアングルになった時の体のバランスに違和感があるので、デッサンを練習しましょう。余白が白いです。正面を向いている構図が多いので、煽りを入れるとかすると良いです。キャラのどこを切り取るかで「このコマで何を一番伝えたいか」を見せることができます。もうちょっとギュッとできるかなと思います。

 

ストーリーについては、ゲーム音楽の話に入る前に、主人公の行動の目的、主人公がどういう人間なのか、ヒロインもどのくらいのクリエイターなのかを描く。主人公が正義感のある奴なんだったらそれがどう培われたのか、好きなものと嫌いなものとか、中心人物の人間性をもっと掘り下げる。それを理解してから入れると後の展開がスムーズです。


惜しいと思ったのはキャラ像が見えづらいことです。なぜ音楽を作る仕事を始めたんだろう?なぜここに住んでるんだろう?ヒロインがゲーム音楽業界でこれから売れていくぞ、という人なのか、とか。主人公がヒロインをきれいだと思うならどの辺が好みなのか。主人公はどういう奴なのか、どういう人生を送ってきた奴で、性格がどうやってできたのか、ビジュアル一つにしてもどうしてそうなったのか、履歴書を考えると良いです。それを考えてからプロットを組んでいくと、キャラが動きます。人間性が分かるほどリアリティも出てきます。

 

次回作のプロットについて、このままでは「何も起こってない」「主人公が何もしてない」「主人公が何も変わってない」作品になってしまっていると思い、かといってどうすれば良いか分からず、思い切って相談しました。

 

Q. ゲーム音楽を1曲作ることが目的のラブコメにするとして、キャラ中心に話を考えたら、グダグダと話して解散するだけの話になってしまいました。でも、ここに何か設定を付け足すとご都合主義になってしまうと思うので、難しいです。どうしたら良いでしょうか?

A. 主人公がゲーム音楽を作ることを通して何を得られたのかを入れると良いです。最初から完璧だと面白くないです。何か満たされないものがあるとか。途中でトラブルが発生して、乗り越えたら、それが完璧になる。例えば、友達ができたとか、変わりようは大事です。

 

Q. 主人公の略歴の説明にあまりページを使いすぎるのも、と思うんですが、1ページぐらいが良いでしょうか?

A. 主人公がモブ的だったらいいですが、そうでないなら1ページとか決めなくても、2~3ページかけて良いです。

 

Q. 今作は第三者視点になってしまっているというご意見を頂きました。ところどころ主人公視点になってはいるんですが。一貫して主人公視点で通した方が良いですか?

A. はい。主人公は読者の分身なので、そうした方が良いと思います。

 

年内最後に相談して良かったです。癖の強い主人公ではあるものの、何か足りないなと思ってました。トラブルが発生して、それを乗り越えることで、満たされないものが満たされる。以前にも持ち込みで他の編集者さんから同じことを言われたにも関わらず、つい頭から抜けてしまいます。正解がないとはいえ、コツがわからないとやりづらいです。自分はけっこう奇を衒う癖があるので、ベタに作ろうと意識することで、ほど良く個性的な作品になるんじゃないかと思います。

 

【持ち込みレポ030】グランドジャンプさんに持ち込みに行きました

4周目では2回目の集英社さんへの持ち込みをしました。

 

感情描写が必要。感情が描いてあったところといえば、ラマ君の「きれいな人だな」と思った所だけ。何で助けたいと思ったのかがわからなかったです。


かおりさんも「いいかげんにして!」がそんなに激昂することなのか?なぜなのか、がわからなかったです。救ってもらったらもらったで急に泣きだすし、そんなにキュンとしないなと。かおりさんがラマ君に名前を教えるというのも意味わからないというか。何が起こっているかというと、題材に引っ張られちゃってるんです。読者がどういう感情になって欲しいのかを考えて逆算すると良いです。

 

ゲーム音楽とストーカーの設定のどちらかが大事ならもう片方は必要だったのか。いろんなものを入れ過ぎちゃってる感じがします。


43ページはちょっと長いかな。40ページも要らないんじゃないかなって思います。


絵についても、背景がほぼ入ってないので、どこで何が行われているのかわからないです。背景は頑張れば頑張っただけ意味があります。


Q. 「感情を描くのが苦手なんですが、脚本の段階で台詞と一緒に感情をト書きにして書いたらいいんでしょうか?」
A. それでも良いと思います。感情を描けないのはけっこうよくあります。こういう題材面白いよねっていうアイデアからスタートしている時に起こりがちです。人と話していて、こう思ったんだよねとか、人助けなら、普段人助けをしない人がなぜ人助けをしたんだろう?と考える。例えば、競馬で大勝ちしたからとか、幼馴染だからとか。いろんな作品を読んで、読者から好かれる主人公を作ると良いです。

Q. 「ご都合主義になっているといつも言われてしまうんですが、自分の癖なのか誰もがそうなりやすいのか気になってるんですが」
A. よくあることだと思います。

 

Q. 「次回作の主人公が陰キャなオタクで、親近感は持ってもらえると思うんですが、憧れる要素がないのが気になっているんですが」
A. 親近感があればいいんじゃないかと思います。

 

次回作のプロットをいったん書き上げましたが、感情についてほとんど掘り下げられてないことに気づいてしまい、これは場合によっては根本的に書き直さないと、と思いました。不自然な言動をしないように注意して書いたので、キャラの感情を分解した時に不自然になっていない可能性もありますが、不自然な動きをしているようなら、話の展開が根本的に変わってくるので書き直さないといけません。

 

たくさん持ち込みをしているともちろん賛否分かれる部分もあります。しかし、ご都合主義や画力不足についてはほとんどの編集者さんから指摘されており、それならそこを直さないといけません。

 

桜玉吉先生がうつの治療を始めた時に「俺もう漫画を描けないや」と頭を抱え、漫画家を辞めることにした、と書いていた理由がわかってきました。今まで「ギャグ漫画家だから」「エッセイ漫画家だから」だと思ってましたが、恐らくどんなジャンルであれ、自分自身や他者の内面を深堀りする必要がある職種なんだろうと思います。病まない程度に向き合っていこうと思います。

【持ち込みレポ029】漫画アクションさんに持ち込みに行きました

双葉社漫画アクションさんに初めて行きました。

 

漫画制作一年目でこのページ数を描き上げるのは一つの才能だと思います。読みやすかったです。コマ割りとかも丁寧で、読者に読ませよう、読んでもらおうという親切さが○○さんからすごく伝わってきて良かった。これってすごく大事なことで、どうしても読者のことを考えずに描いてしまう方もいらっしゃるので。

しかし、あんまりこの主人公とヒロインに共感というか、これから先を見てみたい感じにならない。主人公がいい奴なのは分かるんですけど、○○さんにしか描けないような魅力があると良いです。

音楽という題材をうまく使ってストーカーを退治するというストーリーは、こういう話は読んだことがなかったので良かったです。

 

Q. キャラデザはもっと特徴があった方が良いですか?
A. 特徴がないというか、読者もきれいなお姉さんだと思えるような画力が欲しいです。対象読者を想定して、ギャル好きの読者であればギャル、清楚好きの読者であれば清楚系とか。

 

Q. 背景は一人で描くと限界があって、背景に1日かかっちゃうようだと日にちが掛かってしまうんですが、どうしても描く必要はありますか?
A. 新人作家さんならそれでも描きます笑 こだわって描かれる方が多いです。

Q. ゲーム音楽の話を作るために取材するにしても、ゲーム会社に行くのはハードルが高いので、ネットで調べるのが限界なんですが…
A. ゲーム会社の話にするのであれば、取材すべきだと思います。

 

「やる気の問題でハードルが高いと感じることについては努力します」と言ったら、笑顔で応えてくれました。

 

帰りがけに改めて「非常に読みやすかったです」と言われました。今年の前半はゲーム音楽の知識しか評価されてませんでしたが、今作は読みやすさを評価されることがけっこうあるので、もう一つの武器にしようと思います。

 

画力不足をこれほど毎回のように指摘されるのは凹みます。弱点はもちろん何とかしないといけないんですが、「漫画家には得手不得手がある」と言っていた編集者さんもいましたし、完璧になろうとする必要はないかなとも。イラスト的な絵ならそこそここぎれいに描けるので、漫画として描く時に拙く見えたり、複雑なポーズやアングルの練習が足りないんだろうと思います。

【持ち込みレポ028】くらげバンチさん、COMIC FUZさん・コミックトレイルさん編

くらげバンチさん

面白かったです。女の人をきれいに描いてて良い。突飛な設定もなく、どうなるんだろうと思って読みました。

しかし、ツッコミどころがあります。ストーリーについては、ストーカーに遭ってるだけで傷害事件にならなければ報道はされないはずです。ゲームの作曲家はゲームの企画があって作ると思うので、ゲーム音楽だと無理があるかな。趣味でやっていると定義した方が良いです。


ストーカーに遭っている歩葉さんにしたら、主人公の捜索が若干気持ち悪いんじゃないか。主人公はいい人に描かないといけない。

 

主人公の学生設定が分かりづらいので最初に見せたい。高校生だと親元暮らしが多いので、一人暮らしにするなら説明が必要。

 

足跡はそんなにはっきりつかないと思うので、物を落としてるとかタバコの吸い殻が落ちているなどが良いと思います。ストーカーの理由が仕事の恨みつらみにも見えるので、どういう関係だったのかを描く。「キャー!」と叫ぶコマもちょっと不自然で、人間は本当に怖い時は、恐怖のあまり歯を食いしばって咄嗟に声が出ないと思います。

最後も、助けてくれてありがとうというシーンだと思うんですが、男性に対して警戒していると思うので、食事に行かない?とはなりづらいと思います。


イラストについては、体のバランスがおかしかったりするので、ポーズ集や既存の漫画を模写して基礎的な画力を上げる。歩葉さんの外見が漫画の世界観にしては普通の見た目になってしまっているので、もうちょっと美人に描けると良いです。小物や背景の描き込みが足りないのが気になります。ベタもちょっと雑。

 

Q.「表情がちょっと記号的になってしまった気がするんですが?」

A. 単純に描き込みが足りないかなと思います。「いいかげんにして!」はうつむき加減になるとか、ちょっと横を見てるとか、人間の感情は一つではないと思うので、複雑な感情があるんであれば、全部表現した方が良いです。

 

Q.「キャラが弱くないですか?」
A. 主人公は音楽から想像ができてゲーム音楽が好きなんだと思うので、例えば、そういうオタク気質なところを活かすとか。歩葉さんもゲーム音楽の作曲家だけじゃなくて憧れの存在として描くとか、一見サバサバして見えるけど夜になるとそわそわしているというキャラの出し方があると思います。

 

読み切りだとキャラの個性を出すのが難しいです。このキャラだったらどういう行動に出るか考えて描く。例えば、QRコード付きカードを渡された時に、オタクなら「いいんですか!?」と興奮したり。

 

・COMIC FUZさん

イラストはすごく丁寧に描けてますが、背景が場面によって描き慣れてない。服もパジャマとかねまきになっていないのが気になります。

 

ストーリーに関しては、第三者視点になってしまっており、キャラクター自体に興味が持てない。主人公視点なら主人公視点で描くと良い。ストーカーの話も、話をまとめるために出て来た感じがします。読んだ後にここが面白かった、と話せるのが良いです。


ゲーム音楽というテーマは面白いと思います。私もゲーム音楽は好きなので。知的好奇心を掻き立てられるものが良いかも知れません。

線の太さが割と均一的なので、線の強弱があることで、柔らかさや温かみを出すと良いと思います。

 

週刊漫画TIMES向けに見えるとのことで、これからコミックトレイルさんに持ち込み予定ですと答えました。

 

・コミックトレイルさん

音楽の分野に挑戦して作風を広げているのは良いです。音楽を聴いて音楽からストーカーに音楽から着想を得ているのは音楽ならではで良かったんじゃないかなと思いました。


最後まで音楽で突き通して欲しかったなと読んでいて思いました。また、ストーカー被害は傷害事件があって初めて報道されると思うので、ちょっと突っかかってしまいました。

ゲーム音楽の作曲に入るのかなと最初思ってしまいました。軸がゲーム音楽とストーカー事件の2軸になっている。2軸にすると、2つ気になるものがあるので「引き」はできるんですが、2軸作るのであればどちらも中途半端にせずにうまいことやらないといけません。慣れるまでは1軸で描いた方が良いかも。例えば、「ハイキュー!!」ならバレーボールの1軸のみ、「推しの子」はアイドル成長とサスペンスの2軸があります。2軸にするとうまいことしないと難しいです。

後は、絵が良いと読む、というのが一番シンプルなところなので頑張ってください、とのことでした。

 

「軸」というのは特に用語というわけではないそうで、セオリーというほどには意識しなくても良いのかも知れませんが、慣れてないのにあまりあれこれ詰め込むと、今作のように「軸が2つも3つもある」という評価になってしまうようです。出来るだけストーリーは1軸にするか、2軸にするにしても可能な限り整理しようと思います。

【ゲーム音楽語り018】高いポテンシャルを秘めたワンダースワン音源

ワンダースワン音源については語りたいことがかなりたくさんあります。

 

ツクールやデザエモンなどのコンストラクション系ソフトの他、開発環境系のソフトも収集していた私は、まだ大学生でお金がない中、定価で2万円くらいするワンダーウィッチを思い切って買いました。

 

当時、まだチップチューンという言葉が国内では浸透しておらず、自分も特にピコピコしたサウンドを作りたくてワンダーウィッチを買ったわけではありません。ワンダーウィッチの説明書にPCM音源と書いてあるのを見て、スーファミのような音が鳴らせるのか!と当時は思いました。説明書に書いてあったPCM音源というのは、どうやら波形メモリ音源のことだったようです。

 

雑な言い方をしてしまえば、波形メモリ音源は1周期がものすごく短いサンプリング音源のような使い方ができます。FM音源のような音だと1周期が短い音色も多いので、FM音源のような音なら割と簡単に再現できます。「デジモンフロンティア ディープロジェクト」のBGMなどがそうです。

 

波形メモリ音源の優れたところは、波形を自由に作れるため、サンプリング音源のような音も鳴らそうと思えば鳴らせる点です。例えば、エレピ(エレクトリックピアノ)などはFM音源よりもきれいな音を鳴らせます。あまりこういう使い方をしているゲームソフトを知らないのですが、「ロマンシングサガ」の「迷いの森」のオルゴールとコーラスの音色は未だにどうやって表現しているのか分からず、まるでスーファミ音源のようです。

 

ワンダースワン音源の表現の幅を広げたのはS.W.氏が開発されたWTDの功績がかなり大きいです。特に音色の時間変化ができる点が非常に大きく、「立ち上がりの音」「途中の音」「終わりの音」で音色を時間変化させられるようになったことにより、ピチカートストリングス、オルゴール、ティンパニパンフルート等々、Microsoft GS Wave Synthくらいの音なら表現できるようになりました。昔のWTDは波形が16個まででしたが、最新版のWTDでは128個まで波形を定義できるようになり、さらに自由が利くようになりました。

 

ワンダースワンのゲームソフトでしばしば話題にされるのが「beatmania for Wonder Swan」の音質の良さなんですが、このソフトも恐らく波形メモリ音源の特性を利用しており、ワンダースワン音源が搭載しているボイス機能を使っているわけではないと思います。beatmania for Wonder Swanは、4トラックの音をボタン操作で鳴らせるんですが、標準ボイスチャンネルは1トラックのみなので4音も鳴らせないはずです。4チャンネルの波形を1周期ごとに切り替えて音楽を鳴らしているものと思われます。これを実際にやるとは…という実行力にはたまげます。

 

ワンダースワンのゲームソフトで恐らく最も音楽の評価が高いのは「約束の地リヴィエラ」。ゲームボーイのような音色が多めなので「ワンダースワン音源ってゲームボーイ音源から1音増えただけでしょ?」と思われがちなのがやや残念ではありますが、オーケストラのような音やハープシコードの音を表現していたり、パンも緻密に振って残響を表現しているなど、ワンダースワン音源をよく理解して作り込んでいる印象です。

 

スクウェアスターピースの音楽も、スーファミのゲームのBGMを電子音4音にきれいに落とし込んでいて良いです。中でも「チョコボの不思議なダンジョン」は、元々プレステのゲームなので、よく4音に落とし込めたなという緻密さです。

 

「マリー&エリー ふたりのアトリエ」はエレピや柔らかい音色を使っていて、けっこうワンダースワン音源の特性を理解して作り込まれているように思ってましたが、ネット情報によるとワンダーウィッチで開発されたソフトのようで、その証拠に音色がワンダーウィッチの標準ドライバsound.ilと同じです。よくワンダーウィッチの標準の音色で、あそこまで柔らかいサウンドを表現できたものだと感服します。

 

ジャッジメントシルバーソード」のM-KAI氏が開発され、一時期公開されていたvsound.ilは、PCMボイスを曲中に使用できるという優れもので、これがあるとオケヒやPCMドラム、声などを入れることができ、面白い曲が作れます。まだ開発中で音色もエンベロープもsound.il標準のものしか使えないのが残念な限りです。

 

また、最近気づいたのですが、ワンダースワンカラースワンクリスタルと比べると、初代ワンダースワンのほうが音質が良いです。なぜかは分かりませんが、ヘッドホンアダプタを通しても明らかに違うので、気のせいではないと思われます。

 

ワンダーウィッチを手に入れた学生時代、せっかくワンダースワンの時代が来ると思っていたのに、ゲームボーイアドバンスの登場によりワンダースワンの敗北を確信し、悔しいので何とかしてワンダースワンGBAのようなアコースティックな音を再現しようと苦心して制作したのが「正史エクレシア記 サウンドトラック」でした。

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当時、ワンダースワン音源のサントラが殆ど出ておらず、同人作品としてもかなり物珍しい代物だったと思います。

 

それから16年、いつかワンダーウィッチでRPGを開発しようと世界観をそのままに音楽を一新したのが「新・正史エクレシア記 サウンドトラック完全盤」です。なぜこんなに間が空いてしまったかというと実生活でいろいろあって作曲そのものから離れていた時期が長かったからなんですが、ストイックさを取り戻して、前作以上にこだわって作りました。こちらは同人書店さんでお求め頂けますので、宜しければご検討いただけますと幸いです。

 

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ワンダースワンの後継機のサウンド仕様がどういうものだったのかは知らないのですが、波形メモリ音源8音だったとしてもなかなかイカす仕様だと思うので、お蔵入りになったのは悔しい限りです。

 

上記以外のワンダースワン音源の曲を紹介させて頂きます。

 

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「風車小屋から」

アトリエシリーズ風のBGMです。メルルのアトリエのような世界観で、とにかく電子音らしさをなくしてアコースティックに、を目指して作りました。ギターのトレモロが気に入っています。

 

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「空中散歩」

vsound.ilで作りました。オケヒやPCMドラムを使ったシューティングBGM風の曲です。vsound.ilは開発中の初期バージョンしか存在しないので他の音と同時に鳴らすと変な音が鳴ってしまうという不具合があり、ところどころ音を削ったりしています。

 

 

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「Maniac and Sick」

vsound.ilで作った、U(遊)とI(愛)のキャラクターソングです。ボイスコ様方のご協力により、ボイス入りの曲ができました。這いよれ!ニャル子さんの「嫌いなワケLychee」からヒントを得ました。

 

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「水着に着替えたら」

ワンダースワン音源でサンプリング音源風の音色を表現することにこだわった曲です。特にストリングスは52個の波形を使用しており、かなり手間がかかっています。他にも、スティールドラム、オルゴール、ピチカートストリングス、サントゥールなどが鳴っています。

 

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「朔月」

ワンダースワン音源で作ったピアノソロ曲です。その昔、VORCで「戦場のメリークリスマス」を波形メモリ音源で表現した作品が紹介されており、「正史エクレシア記」のタイトルBGMもそのつもりで作りましたがうまくいかず、ようやく今になって実現できた曲です。

 

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「旅情に誘われて」

他の曲と比べると割とシンプルに作った、民族音楽風の曲です。ワンダースワン音源でこういう曲が鳴るというのはあまり認知されてないかも知れませんが。

 

【持ち込みレポ027】ヤングキングさんに持ち込みに行きました

少年画報社ヤングキングさんに持ち込みしました。

 

前提として、作風的にヤングキングには合わない感じがして、それで私から言うのも何なので、来年1月の新人賞に応募して頂ければ、会社の中の雑誌から講評をお返しできます、と新人賞を紹介されました。

 

新人賞の画面を見せてもらい、送り方を教えてもらったりして少し喜んでしまいましたが、今回の原稿は月マガさんの新人賞に応募中なので、結果が出るまで応募できません。なので、わかりました、と答えておきました。

 

ヤングキングさんの連載作品を事前に読みましたが、アウトローものが多い感じで、ある程度誌風に合わせないといけないんだなぁ、と思いました。